愛情の裏返しに悩まされて  少年時代⑩

彼にガラスのような繊細な心をもっていた少年時代。

私は、周りとは少しだけ感覚が違っている不思議な子どもでした。

 

私は中学校を卒業し、自転車で20分ほどの場所にある高校に通うようになりました。

田んぼの真ん中にあるのどかな学校で、ガラの悪い生徒はほとんどいませんでした。生徒同士の関係も悪くはなく、とても過ごしやすい平和な学校だったと思います。恵まれた環境で伸び伸びと高校生活を楽しむことができました。

そんな高校時代、初めての春、私は、二度目の恋をしました。

相手は、私の前の席の男子生徒でした。彼のきれいに刈り上げられた後頭部を、触り心地がよさそうだなと思いながら、いつも見ていました(笑)。念力、もしくは眼力(笑)が通じたのか、彼はよく後ろを振り向くようになり、話しをするようになりました。放課後になると、自転車で2人乗りをして、遊びに行くのが日課のようになっていました。中学生の頃と違って行動範囲も広がり、自由度も増し、学校外でもよく一緒に過ごすようになりました。どこかに遊びに行くのも、中学生の時のように大きなイベントではなく、日常生活の一部になっていきました。そして、とても穏やかで優しく、清潔感のある彼に徐々に惹かれていきました。

彼に好きだと言葉で伝えたこともないし、彼に好きだと言われたこともありません。手をつないだこともない関係です。きっと私の片思いだったと思います。それでも十分幸せでした。

中学生時代に、恋愛対象が同性であるということを隠す必要性やその術を学んだ私は、高校生になっても周りに性的指向を偽り続けていました。しかし、そんな「自分を偽る自分に疑問」を持つようにはなってきていました。少しずつ、自我が芽生え始めてきていたのです。しかし、その新芽を摘むかのように、私を傷つける他人からの言動は、高校時代も続きました。

一番傷ついたのは、ある同級生から届いた年賀状です。それは、高校2年の元日でした。

家に届いた年賀状を家族みんなで仕分けしていると、その中に真っ赤に塗られた年賀状が一枚入っていました。

その真っ赤な年賀状は、私宛で、差出人は同じクラスの男子生徒でした。

赤い紙を使ったのではなく、赤い絵具で塗られてあり、そこに墨で大きく「女」と一文字だけ書かれていました。

その年賀状を手に取り、すかさず自分の部屋に入り、その赤い紙きれを握りしめながら、心の中にふつふつと湧きあがってくる、悲しみ、苦しみ、辛さ、痛み、恥ずかしさ、悔しさ、怒り...といった数々の感情を胸に抱いて、目の前の真っ暗闇の中で、泣きました。新年の希望に満ちた、元旦の出来事です。

何のために、こんなことをするのだろう?確かに時代的に「ホモ」が嘲笑の的になっていたのは事実です。でも、学校で顔を合わせる相手に対して、こんな手の込んだことをして何が楽しいのだろう?

そう思いつつ、新学期を迎えました。

差出人と学校で再会しても、年賀状についての話は持ち出しませんでした。落ち込んでいる自分。傷ついている自分。弱っている自分を悟られたくなかったし、一刻も早く忘れたかったので...。年賀状の話をしなかったこともあり、彼の狙いが何だったのか、今でもはっきりしたことは分かりません。

しかし、この年賀状事件をきっかけに、人の心の複雑さや深さに気づかされたとは思っています。

その人は、学校でも私にからんでくることが多く、いきなり背中に飛び乗ってきたり、腕を掴んできたりすることがよくありました。大して仲がいいわけでもないのに肉体的接触が多いなとは思っていました。あんな年賀状を送っておきながら、よくそんなにべたべたして来られるなと理解不能でした。女子と話しをしていると、「ヒューヒュー!あいつは彼女なのか?」とからかってくることもよくありました。

彼のそういう行動は、単純な嫌がらせだったのではなく、もしかしたら愛情の裏返しだったのかもしれない...。そう思うようになっていきました。

彼の裏腹な行動に気付いてから、小学生の頃から浴びてきた「ひどい言葉」も、彼らが「本当にそう思っていた訳ではなく」、私のことが「本当に嫌いだったからではなかった」のだと思えるようになってきました。

もちろん、私の言動や表現に違和を感じ、差別的な言動をしたり、排除したりしようとした人もいたと思います。残酷なことですが、「動物としての人間」にとって、それは、生存するための、種を保存するための自然な感覚や行動なのかもしれません。また、私をいじめることで、「快楽」を得ていた人もいたことでしょう。

しかし、人間が抱く感情は、そういった本能的なものが全てではなく、もっと複雑なものなのです。

もしかしたら、私のことが好きだったのかもしれないし、気を引きたかったのかもしれないし、嫉妬心だったのかもしれないし、かわいさ余って憎さ百倍だったのかもしれないし...。全然あり得る話です。

人の心は、そんなに単純ではない。

そのことを知りました。赤い年賀状のお陰です。

そういう私も、大好きだった彼に対して素直になれず、わざと困らせたり、他の人と仲良くする素振りを見せたりしていたなと思います。それも、似たようなものです。

大好きだった彼とは、高校を卒業してから一度だけ会いました。好きは好きだけど、あの頃のようなときめきは感じられませんでした。彼と私の季節は、通り過ぎてしまっていました。

私にとって、「甘い思い出」も「苦い思い出」も、両方とも必要なことでした。「美しい刈り上げ」も「真っ赤な年賀状」も、どちらも私を高めてくれたありがたい経験です。「ピュアな愛情表現」も、「歪んだ愛情表現」も、どちらにも「愛」が込められていたからです。こうやって少しずつ、私は愛を知っていきました。

 

少年時代⑪につづく

コメント

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